ハイブリッドワーカー

最近は学業が忙しくて本を読み進められない。
食事をするテーブルの脇、学習机の隣の棚、トイレの脇、そして鞄の中と、あらゆるとことに本を、それぞれ2,3冊くらいおいて、いつでも読めるようにしているのですが、流石に大学の課題がつみあがると手が出せないですな。そんななか、便所の本(なんか文字に起こすと余計に響きが悪いですが)にしていた本が読み終わりましたので、さららーっと。

ヨシナガ「ハイブリッドワーカー」講談社アフタヌーン新書

簡単に言うと、二足の草鞋を履くひとを、ここでは「ハイブリッドワーカー」としています。でも単純にハイブリッドワーカーと言っても、初めから2つの仕事をこなしている人、社会人になる前にやっていたことを社会人になっても引き続き行っていった人、社会人になった後に、あるきっかけで2つ目を始めた人など、いろいろいるんですね。そんな人たちにインタビューをして、ハイブリッドワーカーのいいところは大変だったところ、その経緯やコツなどを対談する、という感じですかね。複数人にインタビューしていまして、それぞれについて前提が異なりますので、引用スペースはそれぞれで切ることとしましょうか。

田中圭一(サラリーマン×マンガ家)

マンガと営業が、互いの疲れた部分を補完する
(サラリーマンとマンガ家、両方をやっていてよかったこと)どちらの仕事も、けっこう真逆にあるっていうことですかね。営業っていうと、人づきあいとか、そういう対人関係が重要じゃないですか。マンガはむしろ、しっかり内にこもって……僕のマンガは、いかに非常識なことを考えるかが勝負だから。真逆なしごとだったから、振り子のように、月〜金⇔土日と飽きずにできたという。(中略)似た業種だったら……たとえば土日にまた接客業みたいなことやってたら、もたなかったと思います。(pp18-19)


(仮にマンガ家としての職が成り立たなくなっても、マンガは描き続ける理由として)人間、平均寿命でいうと、男性って70代後半位じゃないですか。僕、今47歳なんで、あと30年、つまり今まで生きてきたよりも先が短いわけですよ。となると、あと何冊描ける、何作品描ける、何ページ描けるって計算したときに、やっとかなきゃならないのってけっこうまだ何作品もあったりするし。仕事が来なくなったからもう筆擱いちゃってなんいもしない……ってことはないでしょう。(p47)

津村記久子(会社員×小説家)

中学生のときから分眠してました
(会社員と小説家、いずれもデスクワークであり、ハイブリッドワーカーとしては珍しい、タイトなスケジュールはしんどくないのか、特に睡眠時間を小刻みにしているのとかは、という質問に対して)中学生のときからそうなんですよ。「オールナイトニッポン」が聴きたいからそれまで寝るとか。そんで聴いてまた寝るとか。ああ、そうや、"ラジオっ子"やったからかも。すごい好きやったから、「電気グルーヴのオールナイトニッポン」聴きたさに一度寝ると。(中略)自然なことになってたんですね。もう一つのことをやる場合は、必ずちょっと寝るっていうのが。(中略)小説を書き始めるとなったら、じゃあ寝ようみたいな。[森鴎外さんも、お役所の仕事が終わったら、3時間くらい寝てから起きて書く。で、数枚書いて寝るってことを繰り返してて。まったく同じパターンですよ。ものを書くうえでは、1回寝てリセットして……ということは重要なのかもしれないですね。]なんかパーッと遊んで週末に30枚くらい書くとか、そういうのやりたいんですけど。一日一日でこう、「コツコツ塵も積もれば」でやってくほうが、私には向いてる。(pp72-74)


思った瞬間に垣根を越えろ
(2つ目のことをやろうとしても、なかなか踏み出せない人について)不幸が足りない(笑)!あの、そういう人たちって垣根をね、なんか大そうなものとして捉えてる。「すごくいい作品じゃないと、発表する意味がない」っていうふうに考えてて。対極として、どうでもいい個人的なことを延々と書いてるブロガーとかもいるじゃないですか。「そうはなりたくない」って言うんですよ。(中略)絶対やりたいと思ってて、犠牲になるのがあるのもわかってるけど、ま、やらんとしんどい。やらずに若いときをすごした人っていうのは、ホントに歳とったときにつらいと思う。[歳をとった後でアレができたのにって思うと……。]つらい。それは本当につらいですね。だから自己満足だけのブロガーたちの垣根の低さを、逆に参考にしてもいいんですけど……。(pp81-82)

sachi(OL×ヴォーカリスト

[ものを残せること自体がうれしい。お金目的でやってるのとはちょっと違うわけですね。]そうですね。ただそういうふうに思えるってことは、ちゃんと別に、ハイブリッドで生計を立ててこそですよね。生計を立てるってことを一緒にしてしまうと、喜べる感覚がブレてくると思うんです。[確かに……。音楽一本でやろうってことは考えたことあるんですか?]音楽一本にしなくちゃいけないくらいの状況になったらするかもしれないですけど(笑)。音楽って、自分で一本にしようって決めても、一本にならないケースが多いですよね。[音楽一本にしたら継続的に仕事とってこなきゃいけないし、家賃払って、食費も払って……。]そう。仮にそれで生活するとしたら、どんなにいい仕事でも、金額的にちょっと請けられないみたいな断り方をしなくちゃいけなくなると思うんですよね……。(中略)["会社勤め"は、自分の夢を追うためにはマイナスに捉えるのが一般的ですが、"気持ちの余裕"という側面で見ると、大きなプラスになる場合もあるということですよね。](pp100-102)


とりあえず一日やってみる
(これから歌をやりたい人にメッセージとして)とりあえず……一日やってみる(笑)。あくまでも一日体験のような軽い気持ちで。イヤだったらやめればいいし、イヤじゃなかったら機嫌を決めずにやりたいときにやればいいみたいな。……ゆるいメッセージで(笑)。[それはすごい大事だと思います。ナポレオン・ヒルアメリカの哲学博士。成功哲学の祖とも呼ばれる)が、"人が何か目標を掲げたとき、あきらめるまでにトライする回数の平均値"を出したことがあるらしいんですよ。それって何回くらいだと思います?100回くらいトライする人もいるけど、普通の人は1〜2回でやめちゃうから、平均すると2〜3回くらいって思うじゃないですか。でも答えって、1回未満らしいんですよ。やりもせずにあきらめてる人って、ものすっごいいるみたいで。だからその、とりあえず一日やってみるというのはとても大切なことのような気がします。]料理みたいなものですよね。とりあえずひとくち食べてみて、おいしかったらまた……別に毎日食べなくてもいいし、「あ、あれおいしかったな」って思ったときにまた食べればいいし、おいしくなかったらやめればいいし。その、スプーンで一回口に運んでみる、それが自分のまず1個、記憶というか……。[経験値になる。]そう。だじゃらペロッと食べてみればいいかなと。(pp112-113)

太田靖彦(芸能マネージャー×農業家)

農業はクリエイティブ
[そうか、農業ってものづくりですか。そういう意識は全然なかったです。]いやもう、全然ものづくり。ものすごいクリエイティブ。それで、実は農業やっててわかったことがあって。じゃがいもって、3月末に植えて6月頭にはもう収穫できちゃう。要するに、スタートとエンディング……結果が、確実にもう見えるわけ。もうね、普段俺たちがやってる仕事って、いくら努力しても、結果って見えないでしょ。(中略)そう考えたときに、農業って……もちろん天候で出来高が影響されることがあったとしても、何か植たら確実に数ヵ月後には、食べられるものになって終わる。エンディングが見える。それでもう感動しちゃって。疲れちゃった人っていうのはね、たとえばひきこもりの子とか、鬱のような人って、結局出口が見えない人が多いんじゃないかなと思って。でも、農業やったら、けっこうみんな笑顔になる。実際俺が試してたし、結果出たときの喜びっていったら。なんていうか、簡単っていうのかね、直結してるっていうか。コツコツやったものが「おいしい!」っていう単純明快さ。あ、これだろうって。[確かに、都会の現代人には足りていない部分かもしれないです。](pp136-137)

うーら(OL×料理研究家

やりたいことがないから、できることをやっている
(元々は料理が嫌いだったのに、難病を発症したことにより自分で料理を作るようになり今に至るが、料理はいつ止めてもいいということについて)それは自分でもわからなくて、たまに考えてみるんですけどね。なんでやってるのかなあとか。で、よく考えてみると、わたし、やりたいことがないんです(笑)。[それは昔からそうだったんですか?]そうです。昔から、大して「これがやりたい」って思うことがなくて、でもそういうわけにはいかないかなとも思ってて……今のところ結婚するつもりもないし。だったら「何をやりたいのか」じゃなくて、「何ができるか」を考えたほうがいいかなって。お仕事も人との出会いも、すべて縁だと思うので、目の前にきたときには全力で取り組みたい。もし料理が自分にできることだとして、誰かが喜んでくれるんだったらうれしいじゃないですか。うん、料理が好きっていうよりも、おそらく人が好きなんですよね、きっと。(pp165-166)

RYO(ミュージシャン×薬剤師)

言い訳をしない
ダメだと思ってやめたっていうのは、達成するまでやらなかったっていうだけじゃないですか。そこですよね。そこでやっぱりいろんな問題が……生活がとか、子供ができてとかあるけど。そこですよね。思いっきりやってダメだったらしょうがないですけど、多分、世の中の9割以上が、ホントに死ぬ気でやればなんとかなると思うんですよ。〈だた、本気でやるとなったときに、「サラリーマンやりながらっていうのが本気かよ」って周りに言われてしまうこともあって。仕事辞めないでやってる活動が本気じゃないと取られる場合もありますけど。でも、仕事辞めないと曲作れないとかじゃなくて、仕事終わった後に曲作ればいいだろうとか。そういうやり方もありますよね。〉[言い訳しないってこともあるかもしれないですね。音楽をやめる人って、「仕事忙しいし、会社で昇進もしたし、もうちょっと営業の成績上げなきゃいけない」みたいな、小さな言い訳が積み重なって、結局「音楽やめよう」という大きな決断に至っちゃうと思うんですけど。そこに至らずに、たとえば1日30分睡眠時間を削って、その30分だけ曲を……というやり方でも続けらることはできるわけだし。](pp213-214)

(〈〉は担当マネージャーの発話です。)

(以上、改行任意。漢数字は一部算用数字に改めてます。[ ]は著者の発話です。)