DOMINE SALVAM FAC REGINAM NOSTRAM VICTORIAM PRIMAM

最近全く進んでませんけど、去年の9月ごろから大学の語学仲間とラテン語を勉強していまして、まぁちょっと訳あって今は休止中なのですが、ついこないだ、そことは全然関係ないコミュニティで「私今年度はラテン語を勉強したい」とか言った方がいたので、じゃぁ私も負けてられないなということと相成りまして、以下省略。

まぁなんとなしにWikipediaで「ビッグ・ベン」を調べた際にラテン語を見つけたので、これを分析してみますか。


DOMINE SALVAM FAC REGINAM NOSTRAM VICTORIAM PRIMAM


DOMINEは「主」を意味するdōmīnusの呼格です。マクロンを振るとDŌMĪNEです。ラテン語の名詞の格変化を覚える際に、さんざこの名詞にお世話になった人も多いでしょう。男性名詞の代表格と同時に、ラテン語の歴史の上では幾度となく口にされている「主」つまり「神」「イエス・キリスト」を意味する単語です。

SALVAMは「安泰な、健全な」という意味の形容詞salvusの女性対格形です。

FACは「する」を意味する動詞facereの命令法二人称単数です。

この"salvum/salvam facere"で「救う」という意味になるんでしょうね。英語ではsaveという動詞が「救う」という意味ですが、これについては小林標ラテン語の世界」中公新書に詳しく書いてあります。

「安泰な, 健全な」を意味するsalvus(英語のsafeの語源)から, 新たにsalvareという動詞(英語のsaveの語源)をわざわざ造って「救う」の意味とし, それの行為者名詞としてさらにsalvatorを造ったわけである. 抽象名詞としてのsalvatio「救済」も造られた. salvare, salvator, salvatio, すべてラテン語辞書にはない単語である. しかし, うっかりするとラテン語作文をするときこれらを古典ラテン語のつもりで使ってしまいそうである. (p236)

REGINAMは「女王」を意味する名詞rēgīnaの対格形です。当然この名詞の性は女性ね。

NOSTRAMは「私たちの」という属格代名詞女性形です。これをカタカナで「ノストラム」なんて書くと、恐怖の大王が云々で世紀末に流行ったノストラダムスを思い出す人がいるでしょうが、このNOSTRADAMUSはnostraとdamusに分けられて「我々の」「貴婦人」、つまり聖母マリアを意味する姓なんですね。そもそものノストラダムスの姓はNostredameであり、このフランス語の姓の読みは「ノートルダム」、パリのノートルダム聖堂は有名でしょうか。

VICTORIAMは、これは人名です。「ヴィクトリア」です。ラテン語では人名さえも格変化しますね。

PRIMAMも、「最初の」を意味するprimusの女性対格形です。

というわけで、無事
DOMINE SALVAM FAC REGINAM NOSTRAM VICTORIAM PRIMAM

The Load, save our Queen Victoria the first
と英訳できたわけです。ちなみにちゃんと長音を区別するためにマクロンを付すると、
DŌMĪNE SALVAM FAC RĒGĪNAM NOSTRAM VICTORIAM PRĪMAM
となりますね。

しかしこの一例を見るだけでも、ラテン語が如何に格にこだわっているかがわかります。
DŌMĪNE SALVAM FAC RĒGĪNAM NOSTRAM VICTORIAM PRĪMAM
と、対格の単語の語尾には全てMがついているのが見てすぐわかります。