2 名詞・形容詞の第1・第2変化 直接法と不定法の現在 語順(中山恒夫「ラテン語練習問題集」白水社)

流石に1回で2章分記事を書くのは無理だわ、ということで、1章ずつで見出しをつけてやっていきます。
名詞・形容詞の第1変化はいわゆる規則変化に相当するんだろうな。第2変化からが不規則変化なんだろうけど、上手くこれが残ってる英単語やらを持ってこれればそんなに覚えるのは辛くない、はず。例の池田義一郎「入試頻出7000英単語の総整理」洛陽社のp45に丁度いい項目があったので、これを参考にまとめてみましょう。ついでに第1変化もやっておきます。

第1変化の形がそのまま英単語に残っている例

  • -a→-ae(男性・女性)
    • cicada→cicadae「蝉」
    • formula→formulae「数式」

第2変化の形がそのまま英単語に残っている例

  • -us→-i(男性・女性)
    • bacillus→bacilli「細菌」
    • stimulus→stimuli「刺激」
  • -um→-a(中性)
    • datum→data「資料」(いわゆる「データ」の意味で使うときは単数扱いが一般的)
    • spectrum→spectra「スペクトル」

さて、では単語をまとめていきますか:

puella

少女。仏語に「少女」という意味でfilleという単語があるんですけど、手元に仏語の語源辞典が生憎ないので未確認です。

poēta

詩人ですね、英語にpoetという同じ意味の単語があります。

amīcus

友を意味します。英語ではfriend、独語ではFreundという単語が意味において相当するので参考になりませんが、「アミーゴ」といえば、似てると思えますね。西語で「友」のことをamigoと言います。仏語ではami、伊語ではamicoです。

pīnus

英語で「松」を意味するpineはここから来てますね。余談ですけど、パイナップルっていうのはpineappleと綴って、「松のリンゴ」って意味ですからね。っと思ったら、wikipedia先生曰く、昔はappleは果実全般を指していたらしい、だから意味合いとしては「松の果実」という意味らしいですよ。ジーニアス先生も【初12c以前;古英語 æppel(果実, リンゴ)】と仰っています。

oppidum

意味は「町」です。少なくとも英語においてはこの単語は見る影もなくしてしまいましたが、イートン校の校外寄宿生のことを指すoppidanという単語に僅かな面影を残しています。

bonus

形容詞「良い」です。仏語、西語、伊語にもしっかり影響を残していまして、挨拶を見れば一目瞭然ですね。"Bonjour"、"buenos dias"、"bongiorno"に思いっきり面影を残しています。日本語で言うボーナスbonusと綴りは全く同じですが、本来はbonumと言うべきところを戯言的に用いた、と件の語源辞典は仰っていますね。あぁ、あと、"bon voyage"のbonもそうですよね、まぁこのフレーズは思いっきり仏語からの輸入ですけど。

amō

「愛する」という動詞。アマチュアという単語amateurは愛好家という日本語がぴったり来ますね。しかしこのamateurの綴りはいかにも仏語臭いね。あと有名どころだと、enemyもこの単語からの由来らしいですよ。"en-"がこの場合は否定を意味する接頭語として用いられていて、「愛さないもの」という意味で"en-"と"amy"がくっついて"enemy"になったらしい。これは池田「英単語の総整理」からの引用ですけど、一方で寺澤「英語語源辞典」では、否定のinと友人のamīcusに遡っていますね。うーん、どっちが正しいというよりも、どっちも正しいのかもですね。

moneō

「警告する」という動詞なんですが、なんでまたこの本は第2活用動詞にこんな単語を持ってきたんでしょうかね?数不足ですかね、伝統ですかね。まぁいいや。monitorは元々「警告者」という意味で、それが「監視する」という意味を経て、「モニター」なんていう意味になったんですね。monumentもここから着ているらしいですね。思い出させるなんていう意味もあったのですかな。

sum

ルネ・デカルト方法序説」の"cogito, ergo sum"が有名すぎますね。英語の"am"に相当します。でも"am"はギリシャ語由来であって、この単語はそんなに関係ないそうですよ。仏語のsuis、西語のsoy、伊語のsonoは関係あるんですかね?手元に資料がないので未確認。

esse

英語のbeに相当します、不定形ですね。「存在するもの」「本質」essenceはここから来てます。「欠席する」の"absent"の"-ent"もそうらしい、でもこれは3人称単数形のestからかな。

it

「行く」を意味するīreの3人称単数形です。exitなんかはそれを知っていると「あぁ」と納得すること必至で、そのまんま「外に出る」から「出口」なんですね。transitも"trans-"+"it"で「横切って行く」そして更に派生して「通路」となると。transitには「運輸」「交通」という意味もあるらしく、そういえばgoogleでの経路探索は「googleトランジット」っていう名前でしたね。

castellum

「砦」とか「要塞」とか。英語で「城」を表すcastleの語源にもなっています。ちなみにこの単語の複数形はcastellaとなり、発音は「カステラ」となるんですが、例の洋菓子「カステラ」も元をたどればこの単語に行き着くんですね。イベリア半島にかつて存在した「カスティーリャ王国」がそのなかだちになっています。

cōmoedia

英語のcomedy、喜劇のことです。コメディと行ったほうが分かりますか?

discipulus

生徒、この場合は男の生徒で、女の場合はdiscipulaになります。英語におけるdiscipleは、聖書からの輸入ということもあって「門弟」「キリストの十二使徒」の意味が専らですが、「教え」というニュアンスは「訓練」「規律」という意味のdisciplineには残っています。しかしこのdisciplineという単語、初出は12世紀以前なんですが、そのときの意味が「懲罰」っていうのが、体罰が躾とかいう昨今の親の教育とか、そういうことを考えちゃいますね。

elephantus

英語のelepfant、象です。第二次ポエニ戦争の時に、ハンニバルジブラルタル海峡を超えて時計回りで戦象を連れてきたことがありましたね、あの時にローマ人の多くは象のことを知ったんじゃないのかな?

exemplum

例。英語のexampleです。論文なんかで書かれる"e.g."は"exempli gratiā"の略で、英語で言う"for example"に相当しますね。因みに独語では"z.B."って略したりします、正式には"zum Beispiel"で、意味はおんなじです。

fenestra

「窓」です。独語はFensterで確かにこの単語に近い形をしているんですけど、英語のWindowはどっから来てんの?という訳で語源辞典にお問い合わせしてみますと、どうやら近代英語初期まではこれの子孫であるfenestreが使われていたようですが、この単語が中英語時代にフランスから借入される以前から使われていたvindaugeが現在に到るまで絶滅せずに生き残ったと、そういうわけだそうです。windowはwindと関係があるんじゃないかというと、まさに関係がありまして、wind(風)とauge(目)が由来です、つまり、「風の目」が「窓」なんですね。

fluvius

こちらも独語のFlussに似ていますね、「川」です。じゃあ英語のrivreはどこからですかというと、ラテン語のrīpāriusに辿り着きます。これは元々「川沿いの土地」という意味で、12世紀から「川」という意味に変わったそうです。

fundāmentum

今度は英語のfundamentalにそっくりですね、「基礎」「基本」です。

īnstrūmentum

こちらも英語のinstrumentのまんま、「道具」「器具」です。羅語の方にこの意味はあるのかどうかはちょっと分かりませんが、英語では初出は「楽器」の意味だったそうです。

praemium

「褒美」の意。英語のpremiumはこの単語から来ていますが、初出の意味は「賞」ですね。

statua

「彫像」のこと、英語のstatueはここからですね。「自由の女神」は英語でStatue of Libertyです。

tabula

「絵」「板」「ノート」と、複数の意味があるそうです。パソコンで絵を描くときに使う道具は「ペンタブレット」って言いますけど、このtabletはここから来ていますよね。tableもこの単語が由来です。

templum

「神殿」です。英語のtempleはここからです。

terra

「土地」や「陸地」という意味。「領域」という意味の英単語territoryや「台地」を意味するterraceはここから来ています。「地中海」Mediterranean Seaも、terra(陸地の)+medius(中の)sea(海)ですからそのまま地中海ということになるんですね。

Mārcus

マールクス、人名ですね。英語圏ではMarcusやMark、ドイツ語圏ではMarkus、イタリア語圏ではMarcoという形で残っていますね。「資本論」で有名なカール・マルクスマルクスの名を持っていますが、この場合はやはりこの単語を由来とするドイツ語圏の姓Marxです。

et

英語のandです。「その他」という意味で使われる"etc."は"et cetera"(エト・セトラ)の略語で、英語で言いうと"and so on"となります。独語では同じ意味で"usw"(=und so weiter)というのがありますね。論文などでは"Smith et al."というのがありますが、この"et al."は"et alia"(エト・アリア)の略語で、"and others"です。あと、正式名称を「アンパサンド」という、いわゆるアンドの記号"&"ですけど、これは実はEとtの合字から成り立っているんですよ。詳しくは『"&"(アンパサンド)の正しい書き順』極東ブログhttp://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2004/10/post_3.htmlあたりを参考にしてください。

Paulus

パウルス、これも人名。最初は姓として使われていたのが、キリスト教の伝道師パウロの影響で名前に使われるようになったそうです。英語のPaulはここからですね。

Dānuvius

「ダーヌウィヌス川」、現在のドナウ川のことです。合唱曲としての『美しく青きドナウ』は中学生の時に初めて訊きましたが、中々印象深い楽曲でしたなぁ。

Rhēnus

「レーヌス川」、現在のライン川です。上のドナウ川と並んで、欧州の2大河川というイメージがありますが、実際に欧州における国際河川の地位を持っているだけでなく、この2つの川は運河で結ばれているんですよね。ライン・マイン・ドナウ運河という運河なんですが、これを利用することにより、ライン川が注ぐ北海とドナウ川が注ぐ黒海がひとつながりになったんですよ。

Claudia

「クラウディア」という女性の名前です。暴君として名高いネロの、その妻の名前はクラウディア・オクタウィアですね。

Lūcia

「ルーキア」という、これも女性の名前です。英語名ではLucyに相当します。

Tarentum

地名「タレントゥム」、現在のイタリアはターレントがそうです。古代ギリシャではターレスとも呼ばれていました。

Mediōlānum

これも地名「メディオーラーヌム」、現在のイタリアはミラノです。元々は「平原の真ん中」という意味だそうです。

aurum

「金(gold)」のこと。元素記号でもAuって書きますよね。イタリア語だとこれがoroという形に変わって、イタリア語でpomodoroと書くと「金のリンゴ」という意味でこれが「トマト」を指すんですね。トマトはナス科の植物、メキシコからヨーロッパを通じて日本に渡来しましたが、最初に見た印象はヨーロッパ人と同じで「気味の悪いもの」で、最初は観賞用植物だったそうです。ちなみに来日した時の名前は唐柿。中国では「番茄」が一般的ですが「西红柿」という名称も残っています。

ferrum

「鉄」です。これも元素記号のFeで繋がりますね。因みに上のaurumもそうなのですが、このferrumも英語ではiron(金はgold)となっています。このironやgoldは印欧祖語からの由緒ある(言語に対して「由緒ある」というのはどうかと思いますが)単語なんですよね。じゃぁaurumやferrumの由来はなんだろうって考えてしまうのですが、如何せん手元にそういうのがわかる資料がない。

Graecia

地名「グラエシア」、ギリシャのことです。

Italia

地名「イタリア」、言わずもがなですね。

stilus

「鉄筆」「ペン」のこと。英語のsteelと関係あるのかなと思い語源辞典を引いたのですが、ラテン語を介さず印欧祖語に行き着いてしまったので、その印欧祖語からの分家かもしれませんね。

longus

「長い」という形容詞、英語のlong、独語のlangはここからです。仏語ではlong、伊語ではlung、西語ではlargと、やたら人気ですねlongusは。

circus

「円形競技場」のことです。英語読みすると「サーカス」ですが、もちろんこの単語から来ています。ここから派生した接頭語"circ-"や"cyc-"は「円」を意味していまして、circleやcycle、bicycleなんかはそのままのイメージですが、「循環」を意味するcirculaitonや、「百科事典」を意味するencyclopedia、「環境」を意味するcircumstanceなんかもこれが由来ですね。「回路」のcircuitなんか漢字のまんまじゃないですか。

magnus

形容詞「大きい」。地震の規模を表す「マグニチュード」は、この単語から来たmagnitudeのことですね。マグナカルタ(Magna Carta)は実はラテン語で、英語ではthe Great Charterです。どうやら原文自体もラテン語で書かれたらしいね。

parvus

magnusの対義語、「小さい」です。フランス語で「小さい」はpetitですけど、この単語が由来なんですかね?あ、petit読みは「プチ」ですからね。

novus

「新しい」です。英語のnew、独語のneuもここから来てます。語尾が-aになればnovaとなり、英語では「新星」を意味し、これにsuper-を付ければsupernovaで「超新星」となります。

firmus

「固い」、英語のfirmの語源です。「固く(firm)する(af<-ad)」でaffirm「断言する」、「全部(con)を固く(firm)」でconfirm「確かめる」、「固く(firm)ない(in)」でinfirm「虚弱な」となります。

clārus

「有名な」「輝かしい」や「明るい」「はっきりした」などの意味がありますね。英語のclearやcleanはよく似ているから気づく人も多いでしょう。declare「宣言する」は「はっきり(clear)する(de-)」から来ていますね。

Vērōna

「ウェーローナ」現在の北イタリアのヴェローナです。シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の舞台はこの街だそうです。

aegrōtus

「病気の」という形容詞。現代英語でこの意味を持っているのはillやsickが有名所ですが、前者は12世紀ごろにスカンディナビア方面から、後者は11世紀以前の古英語の時代からある単語で、どうもラテン語圏の単語はコンクエストできなかったようですね。

tuus

二人称単数所有代名詞「あなたの」。これの主格tuについては、独語のduはこれが由来ですし、仏語に至ってはまんまtuの形で残っていますね。英語もthouという単語があって、聖書では未だこの単語が使われているのですが(邦訳するときは得てして「汝」と訳されます)、現在では、古英語では二人称単複再帰代名詞(現代英語のyourself, yourselvesに相当)だったyouに取って代わられています。

meus

一人称単数所有代名詞「私の」です。英語のmy、独語のmeinですね。ラテン語派の言語も、全部mから始まっていますよね、このあたりの人称代名詞は。

rēctus

「正しい」という形容詞。英語のrightや独語のrechtの由来です。因みに、なんでrightになぜ「右」という意味があるのかということについて、ジーニアスは『「知恵者の心は右にあり(聖書)」から「右手」は「正しい」という連想が生まれた』とありますが、寺澤の語源辞典を見ますと古英語(700-1100)からとある「正義にかなった」「正しい」のほうが、古英語後期からの「右の」よりも前にあるといいますし、どちらが先なのかはなんともですね。古代ローマに、つまりキリスト教以前から右優位の習慣はあったという文献もあるそうですし。

strēnuus

「一生懸命な」や「頑張っている」という意味です。

acūtus

「尖った」「鋭い」という意味の形容詞。英語のacuteはこの語が由来です。因みにacuteから頭音消失したcuteは現在では「可愛い」の意味で用いるのが一般的ですが、もともとは「利口な」とか「気の利いた」っていう意味だったそうです。それならacuteの頭音消失と言われても納得できなくはない。しかしなぜこれが「可愛い」という意味になったのかしらね、何か心に鋭く刺さるものでもあったのでしょうか?教えて、1834年に初めてこの意味でcuteを使った人。

multī

「多くの」「多数の」の意。英語のmultiはまんまですね。

sānus

「健康な」という形容詞です。sanitaryは水回りを意味する建築用語「サニタリー」として日本語に入っていますが、元々この英単語も「健康の」「衛生的な」という意味で、英単語の名詞としてsanitaryを使うと「公衆トイレ」という意味になるそうです(public restroomの方がよく使うのかな?)。どうてもいい話ですが、ここ3ヶ月フランス語かぶれな私は、"oi"の綴りをどうしても「オワ」と読んでしまうようになってしまい、toiletと綴られると「トイレ」とも「トイレット」とも読まずに「トワレ」と何の迷いもなく読めるようになりました(なってしまいました?)。

paucī

「少数の」という意味。先程のmultīの対義語ですね。因みに教科書の方での例文は、カンマ以降は動詞suntを省略しているのですが、出てくる名詞が全て主格なのだからコピュラとしてのsuntはカンマの前でも省略しちゃっていいんじゃないかなとか考えたりしました。それともこの2つの形容詞は限定用法じゃなくて叙述用法で捉えて欲しいという思惑でもあるのかしら。てかそもそもラテン語に限定用法と叙述用法の区別ってあるんですかね?

falsus

「間違った」「偽の」の意味、rēctusの対義語です。英語のfalse、独語のfalschの語源ですな。

fīdus

「忠実な」「誠実な」という意味。「打ち明ける」「信用する」という意味の英単語confideの中にも面影が残っていますね。忠実で誠実であると信頼され、信頼がある関係は仲間であるとも言えましょう。「同盟の」「連邦の」という意味のfederalはそうして生まれた単語の一つで、FBI(Federal Bureau of Investigation: 連邦捜査局)や最近良く聞くFRB(Federal Reserve Banks: 連邦準備銀行)みたいに、米国の政府系機関のお名前によく入っていたりしますね。

attentus

英単語のattentionにそっくりです、「注意深い」という形容詞。

aedificium

「建物」という意味。

stēlla

「星」という意味です。英語のstarや独語のSternはこれが元ですね。

cantō

「歌う」という動詞。伊語のcantabileは音楽の演奏記号で「歌うように」「表情豊かに」という意味です、まぁ「カンタービレ」と書いてしまえば、TVドラマ化やアニメ化した某音楽マンガのタイトルに使われていますからお馴染みだとは思いますが。「歌」を意味を持つ伊語のcanzoneという単語もここから来ているのでしょうね。

labōrō

「働く」とか「苦労する」という動詞。思い切り英語のlaborの祖先だということは人目で分かりますね。laboratory「実験室」もこの単語から来ていますよ。

ārdeō

動詞「燃える」。そんなにメジャーじゃありませんが、「熱烈な」という意味のardentや、「放火」という意味のarsonに面影があります。

lūceō

「明るい」という形容詞です。明るさを測る基準のひとつ、「照度」の単位ルクス(lx)はこの単語を名詞化したluxから来ています。また、元々は「光らせる」という意味であったが、後に「明らかにする」「説明する」という意味になった単語がillustrateである。

clāmō

「叫ぶ」という意味の動詞です。英語のclaimはこの単語から来ていますけど、英語では一度も「叫ぶ」という意味で使われていませんね。因みに英語で「叫ぶ」という意味のshoutはゲルマン祖語経由で、ラテン語派とはそんなに絡みがないです。

fleō

「泣く」という動詞、flentはそれの3人称複数現在形です。こちらも英語のcryとはまるで似ていませんが、じゃあcryはどこの出自かと問いますと、実はこちらもラテン語由来で、quirītō(不定形はquirītāre)という動詞から来ています。英語のcryには「叫ぶ」という意味もありますから、多分にfleōがさめざめと泣く、quirītōが大声で泣く、なんでしょうねきっと。

imperō

「命令する」という意味。これの名詞であるimperiumから、「皇帝」を意味するemperorや「帝国」を意味するempire、「帝国の」を意味するimperialが生まれています。因みにこのimperialの歴史については、小林標ラテン語の世界』中公新書の一番最初の話題になっていますよ、是非ご一読下さいませ。

pāreō

「従う」という動詞です。似た動詞にparō「準備する」というのがあるのでご注意ください。

lūna

「月」です。日本では比較的メジャーなラテン語ですよね、と言っても、実際のところは英語からの輸入でしょうけど。「月の」という形容詞はlunarですし(lunar age「月齢」、lunar calendar「太陰暦」)、かぐや姫のような月の住人のことはlunarianと言ったりします(あなたに伝えにやって来たほうの人も、メインヒロインの「太陽」SUNに対抗して「月」LUNARだったのは、まぁ言わずもがなですけど)。「気の狂った」「狂人」という意味でlunaticという英単語がありますが、これは古来に月が人を狂わすと信じられていたからだそうですよ。

plēnus

「〜に満ちている」という形容詞。これの動詞形はplēreですけど、この"pl"というのが英語では「満たす」という意味で様々な単語を構成しています。「十分な」のplenary、「豊富」という意味のplentyは元より、「加える」という意味のplus、「完了する」のaccomplish、「完成する」のcomplete、「供給する」のsupplyなどもこの"pl"を含んでいますな。

licet

英語のletに相当ですね、「〜しても良い」「〜を許す」という動詞です。「免許」「ライセンス」という意味のlicenseや、「暇」「レジャー」という意味のleisureはこの単語から来ていますが、letは違うそうです。しかし日本語で「レジャー」って言うとあんまり「暇」という感覚はないですよね、日本人は休日でも急いで色んな所に出かけていきます。人ごみや行列が大嫌いというあんまり日本人っぽくない、それでいて異端を嫌うといういかにも日本人的な私としては、こういう風潮は厭なものです。

bēstia

英語のbeastまんまですな、「獣」です。確かdeer、beast、animalのお話は…どこで読んだんだっけなぁ(本棚を見回す)…あったあった、これだこれだ、寺澤盾『英語の歴史』中公新書のp69にありましたね。あれ、でもこの説明だとbeastの先祖はかつて「動物」全般の意味を負ったことになっていますけど、てことは現代英語のbeastラテン語bēstiaが持っていた本来の意味に戻ったっていうこと?教えてお父様、という訳でいつもの語源辞典にお尋ねしてみますと(私の手元にある『英語語源辞典』研究社の編集主幹こそが、寺澤盾の父親である寺澤芳雄です)、13世紀以前にbeastは英語になったそうですが、1611年の欽定聖書では人間以外の動物全てにbeastが使われているようですね。animalという単語は植物に対する動物(今で言うと広義の「動物」ですかね)という意味で1330年あたりで入ってきて、今の意味での人間を含まない意味の動物として用いられ始めたのは17世紀初頭からだった様子ですね。丁度欽定聖書が作られたあたりで入れ替わってるらしいですよ、人間を含まない意味の動物としてのanimalの初出は1599年Shakespeareの"As You Like It"だそうですし。

studium

「勉強」意外にも「熱意」とか「意欲」とかいう意味もあるそうですよ、この名詞。英語のstudyまんまですね。

vērus

「真の」という形容詞。「真実」という意味のverityや、「立証する」という意味のverifyもそうなんですけど、中1単語のveryもこの単語が由来です。まぁ「まさに」という形容詞としてのveryよりも、「とても」という副詞としてのveryの方がメジャーですけどね、名詞の強意のときにthe very 〜って書くという文法がありますけど。

gaudium

「喜び」という意味の名詞。英語のgladはこの単語から来たと思いきや、どうもそうではないらしいです。

errō

英語のerrとそっくりです、「間違う」という動詞です。因みにこの名詞形はerrorでいよいよ英語とおんなじですね。

taceō

「黙っている」という自動詞。

saepe

「しばしば」という頻度を表す副詞、「よく」と言う訳の方が私は好きですけどね。

stultus

「愚かな」という意味です。stultifyという「無能力を申し立てる」「馬鹿に見せる」という意味を持つ英単語があるそうですが、stupidとは語源違いだそうです。

semper

「いつも」という副詞。1598年にシェイクスピアが『ヘンリー四世 第2部』でこの単語をそのまま使っていますが、まぁ普通はalwaysですよね。しかしシェイクスピアと言うと四大悲劇がどうしても有名ですが、それは中期の作風であって、初期は史劇を書いていたんですね、知りませんでしたわ。

iūcundus

「楽しい」という意味の形容詞。英語ではfunが相当するのでしょう。因みにこのfunという形容詞、音節は1つでありながら比較級や最上級としてはmoreやmostを用いた表現が一般的で、funnerやfunnestという言い方は基本的にはしないそうです。これは本来funが名詞であるため、-erや-estという語尾変化はしないという理由だそうです。手元の語源辞典にはfunには形容詞的用法は書かれていませんね(funnyはありますけど)、天才さんには一応形容詞という枠も充てがわれていますけど。