1 発音(中山恒夫「ラテン語練習問題集」白水社)

Syrācūsae

シラクサ。イタリアのシチリア島にある都市の名前です。アルキメデスの出身地としても有名ですね。伝統あるイタリア地域の古都ですが、中世の地震とペスト流行の影響、そして第2次世界大戦の連合国軍や降伏後のナチスドイツの空爆によりかなりの遺跡などが失われたそうです。

Hypanis

ヒュパニス川。現在の南ブーフ川で、現在のウクライナに流れているそうです。ヘロドトスの「ヒストリアイ」で、中央アジアで生活している遊牧民を記述しているところで出てくるらしい。

rosa

バラです。薔薇です。どうでもいいですけど「薔薇」で「バラ」って読むのは「苹果」で「リンゴ」って読むとの同じくらいの当て字ですからね。ちなみに「薔薇」と「苹果」は中国語で通じますが、「林檎」は通じませんから悪しからず。って、何の話を…そうそう、バラでしたね。英語のrose、独語のRoseですね。

īnserō

挿入。英語のinsertです。この単語の発音は「いーんせろー」で語頭の「い」にピッチがありますね。

cūius→quis

英語のwho、独語のwerですが、これだと何か共通点ないからつまらないですね。仏語のquel、伊語のchi、西語のquién、と言えば、あぁ似てるねって思うでしょう。自分の僅かな経験からですが、不定代名詞は、英独語は"w..."、仏西語は"q..."、伊語は"ch..."という形が多い気がします。ラテン語派はちょっとよくわからないですけど、英語は俗に5W1Hなんて言い方しますよね、when、where、who、what、why、howですけど。これ、ドイツ語だと、wann、wo、wer、was、warum、wieと、最後のhowがwieってなってドイツ語だと6Wになるんですよね。じゃぁこのhowの語源は何だ?と語源辞典を引いてみますと、古英語にまで戻るとわかります。

現代英語 古英語 現代ドイツ語
when hwænne wann
where hwær wo
who hwā wer
what hwæt was
why hwī warum
how h(w)ū wie

つまり、古英語の時点でこれらの6単語は全部"hw..."の形で綴られていたのが、h(w)ūだけwが落ちてhowになり、残りの5単語はwhの形で今に至ったというわけですね。決して他の言語から借りてきたわけではないと。成程ね。しかし、どうして現代英語でwhっていう綴りになったんですかね?だって発音は今でもhwの形なのに。

Caesar

言わずと知れたカエサルですね。シーザーとも呼ばれたりしますが、羅語ではガーイウス・ユーリウス・カエサル(Cāius Iūlius Caesar)、英語ではガイアス・ジュリアス・シーザー(Gaius Julius Caesar)、というわけです。カエサルは西洋の歴史にだけでなく、各語の単語にも相当に影響を与えていますね。Caesarは独語ではKaiserという形で「皇帝」という意味で、Iūliusは英語のJuly、独語のJuliという形でユリウス暦(これもそのままJuliusですね、まぁユリウス暦を作ったのがそもそもカエサルなので)の「7月」という単語に影響を与えていますね。後者については、カエサル共和制ローマユリウス暦を採用するときに自分の誕生月を自分の名前に変えたという歴史があります。ちなみにアウグストゥスも自分の誕生月である8月を自分の名前Augustusに変えていますね。英語、独語のAugustですな。

Poenī→Poenus

ポエニー人。カルタゴ人とも言うらしいです。単語を見るとフェニキア人(Phoenician)と似てますけど、どうも同じ民族を指しているわけではないらしい。カルタゴは地名でして、現在のチュニジアにかつて存在した都市国家のことです。シチリア島の鼻の先なので、イタリア半島周辺の国家とは度々戦争をしていたそうですが、ついにスキピオ・アエミリアヌス(小スキピオとも)率いるローマ軍によって滅ぼされたそうですな。もともとシチリア島サルディーニャ島、コルシカ島カルタゴによって支配されていたそうですが、ポエニ戦争によって全て共和政ローマに奪われたそうです。そういえば、どうしてサルディーニャ島とコルシカ島はあんなに近いのに、前者はイタリア領、後者はフランス領なんだろうと思っていましたが、今ググってみたところ、どうもコルシカはイタリア(というかイタリア半島にあった都市国家ジェノヴァ)と独立をかけて戦争しており、その時にジェノヴァがフランスに助けを求めたためにフランスが絡んできたらしい。そのあと一定期間はフランスが統治をしていたのですが、コルシカの独立派が再び独立戦争を仕掛けてきたので、フランス軍がこれを鎮圧し、正式にフランス領となったそうな。

subtīlis

形容詞「繊細な」という意味。英語には「かすかな」「ほのかな」「微妙な」という意味の形容詞、subtleという形で存在していますね。発音は/sʌ́lt/で、ジーニアス英和大辞典に拠りますと、「sub-(…の下)+-tle(織物)→器用な手さばきが必要となる」って書いてあります。一応DUO3.0にも速読英単語必修編にも載っている単語なので、この英単語自身、覚えておいた方がいいっぽいですね(私はすっかし忘れていましたが)。

Cicerō

発音は「きけろー」ですが、一般的にはキケロの名で通っているらしいですね。共和政ローマの政治家です。カエサル亡き後に政権の座を狙うアントニウスに対して、オクタウィアヌスの威を借りて非難をしたらしいが、アントニウスオクタウィアヌスの間に三頭政治の協定が結ばれたことにより失脚し、後にアントニウスの放った刺客に暗殺されたそうです。余談ですが、キケロの息子(小キケロ)はその後ローマの執政官になったそうで、その権力を使って当時既に戦争で自刃していたアントニウスの名誉を全て剥奪したそうです。なんという復讐劇。

celer

「速い」という意味の形容詞。英語のaccelerateにこの形が残っています。「ac-(…へ)+-celerate(急ぐ)」とジーニアス英和大辞典には載っていますが、celerateは更に"celer"と"ate"に分解できますよね。-ateは動詞を作る語尾として大変に有名ですから、このaccelerateという英単語の意味の根幹はac-とcelerということになります。ちなみに「減速する」という意味でdecelerateという英単語もあります、余談ながら。

faciō

動詞「行う」です。faciōというのは直接法現在1人称単数の形ですが、これを目的分詞に変形するとfactumとなり、英語のfactが出てきました。この動詞faciō(不定形はfacere)からできた英単語は数知れず、工場:factory、空想:fiction、手工業:manufacture、効果:effect、利益:benefitと基本単語がボロボロと出てきます。

Genua

今でいうジェノヴァですね、さっきPoenīのところでも出てきました。

Gigantes

ギガンテス、巨人族のことです。今気づきましたが、ちゃんとこの「gは/g/の音であって/dʒ/じゃありませんよ」の項目で上げている単語は、多言語では/dʒ/の音になってるものですね。Genuaは伊語でGenova、英語でGenoaで発音はそれぞれ「ジェノヴァ」「ジェノア」ですし、Gigantesは英語のgiantにそのままつながっています。

Chios

キオス島。ギリシャにある島のお名前だそうです。

theātrum

劇場、英語のtheater、独語のTheaterまんまですね。イギリス以外の英語圏では映画館の意味でも使われます。イギリスで映画館はcinemaで、独語でもKinoと言います。cinemaは正式にはcinematographと言い、cinemaはギリシャ語の動く:kīneînという動詞から来ているそうです。graphはそのまま単体で図を意味している英単語ですね。

philosophia

哲学。英語でもphilosophy、独語でもPhilosophieです。この単語が「知(soph)を愛する(philo)学問(y)」であるというのはあまりにも有名ですかな。この"phil-"っていう接頭語は日本語で言うフィルハーモニー:Philharmonie(独単語、英語ではphilharmonia)の"phil-"と同じですね。

mūsica

英語のmusic、独語のMusik、音楽です。こうやって見ると(ホントは見ただけじゃわからないんですが)、独語の方はストレスアクセントが後ろに来ているんですよね、ムズィークって。モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」はこれですよね、"Eine kleine Nachtmusik"で、日本語だと「小夜曲」なんて訳されたりしますが、日本人だと多くの人が「ナハトム」と「ジーク」て切ったりします。本当は夜:Nachtと音楽:Musikの合成語ですから、ご注意遊ばせ。

Mūsēum

博物館・美術館、英語でも独語でもmuseum(Museum)ですが、英独ともにeにアクセントが来ていますが、独語の場合はuが短母音になっています、ムゼーウムと。今ここの記事を書いていて大変なことに気がついてしまったのですが、今使ってるこの中山恒夫「ラテン語練習問題集」白水社、巻末の単語集の中性名詞が軒並み複数形を-iって書いているんですけど、これ誤植ですよね?…と思ったけど、もしかしてここに描いているのは単数属格の語尾なのかな?どうも属格の語尾は多くの男性名詞や女性名詞では複数形と変わらないが、中性名詞だけ-aではなく-iになるっぽいし…。まぁ、そうでしょうね、きっとそうです。

exāmen

試験です。独語はそのままExamenですが、英語は正式にはexaminationですよね、この-inationはなんだろう、と調べてみると、どうやらラテン語にexāmināreという動詞があって、こっちから仏語経由で英単語になったらしいですね。

rēxī→regō

「支配する」という動詞です。英語にもreignという形でありますね。「王の」という意味のrigalやroyalなども、ラテン語の王:rēxから来ています。

iam

「今」とか「既に」を意味する副詞です。英語のnowや独語のnunは、これとは別のnuncから来ているっぽいですね。

iocus

冗談、英語のjokeはそのままこれから来てますね。

vīnum

英語のwine、独語のWein、ワインのことです。

Venus

日本ではヴィーナスって呼ばれますね。ラテン語ではこれは「ウェヌス」と発音します。ローマ神話におけるVenusはギリシャ神話におけるΑΦΡΟΔΙΤΗ(アプロディーテー)に相当するらしいですね、私はこのあたりは全く詳しくないので分かりませんが。

appellō

「呼ぶ」「名付ける」という意味と、「近づける」という意味を持つ動詞だそうで、前者と後者では人称変化に違いがあるらしい。英語のappealやapproachと関係があるのかなと思って調べてみましたが、どうもそんなに関係ないっぽいです。

Ennius

エンニウス、ローマの詩人だそうです。ローマ詩の父って呼ばれているらしいですよ。

amoenus

「魅力的な」という形容詞。

Aegyptus

エジプトのことです。もともとこのアイギュプトゥスっていうのは、ギリシャ神話において今のエジプト地域を支配していた王の名前だったらしいのですが、それがその地域を指す名前になったらしいですね。古代エジプト文明がローマ帝国によって滅ぼされてからこの名前が使われるようになったそうで、それより前に「ミスル」という呼び方があったそうです。現在のエジプト、エジプト・アラブ共和国は自国のアラビア語での正式名称をجمهوريّة مصر العربيّة(Jumhūrīya Misr al-‘Arabīya)とし、通称مصر(Misr)としているのは、ここから来ていますね。

Sicilia

シチリアのことです。Syrācūsaeのところで紹介しましたね。

hominēs→homō

人間。hominēsはこれの主格および対格形です。英語のhumanがここから来ているのは言うまでもありませんね。

練習問題Iの地名・神名は割愛ね。